第27回《生誕150周年に寄せて》E・グラナドス:ピアノ組曲《ゴイエスカス》より、第4曲『嘆き、またはマハと夜ウグイス』
新年度が始まり、気持ちも新たにスタートしましたね。今年の桜の見頃は一瞬といった感じでしたが、そんな一瞬でも「始まったなぁ」とフレッシュな気持ちにさせてくれます。そうして始まった新年度、色々と新しい事に挑戦していきたいと思いますが、早速一つ動き出した事があります。この度、逗子を拠点に活動している音楽事務所「ぷらすみゅーじっく」さんのホームページ内で「しんやノート」というコラムを(三ヶ月に一度ではありますが)連載する事となりました。今回のコラムではその第1回目の記事を載せようと思います。
第1回《命をかけた傑作》
記念すべき第1回目にご紹介するのは、今年メモリアルイヤー(生誕150周年)を迎える作曲家、エンリケ・グラナドス(1867〜1916)の作品です。普段あまり名前を聞かない作曲家ですが、彼の残した作品はどれもロマンティックでメランコリー、哀愁漂う美曲ばかりです。今回は中でもオススメのピアノ曲をご紹介したいと思います。
グラナドスはスペイン出身の作曲家。故に、彼の作風には二面性があると言われています。一つは彼の中に流れるスペイン人としての気質を全面に出した民族性、もう一つが純粋で愛に溢れたロマンティシズムです。どちらの性格もグラナドスの大きな魅力で、民族色の濃い「スペイン舞曲集」(特に筆者は第5番「アンダルーサ」が好き)や、名前通り「ロマンティックな情景」などは、シンプルでありながらその美しいメロディーにため息が出てしまう名曲です。そして、この民族性とロマン性という二つの流れを完璧に融合したのが、今回ご紹介する円熟期の最高傑作『ゴイエスカス』です。
「ゴイエスカス」とは“ゴヤの絵風の場面集”を意味しており、同時に「恋するマハ(女性)とマホ(男性)」という副題が添えられています。この曲集は、彼が常に深い憧れを抱いていたフランシスコ・デ・ゴヤ(1746〜1828)の世界観の漠然とした印象を、物語風で趣を帯びた2集6曲に収めたもの。中でもロマンティックでいてスペインの魂を強く感じる(つまり完璧な融合)傑作が第4曲「嘆き、またはマハと夜うぐいす」。絶妙な色彩感と魂に訴えかけてくる旋律は聴く者を惹きつけます。
月光のさす窓辺で恋人を待ちながら思いに沈むマハの姿と、茂みで無心に歌うナイチンゲールの囀り。息の長いフレーズで歌われる主題は悲哀感を漂わせ、最後には夜うぐいすの声が聞こえて来る。
この『ゴイエスカス』は後にオペラへと改作され、アメリカのメトロポリタン歌劇場で1916年に初演されました。しかし、その初演に立ち会った帰路、乗り合わせた英国汽船が英仏海峡でドイツ潜水艦Uボート(第1次大戦中)から魚雷攻撃を受けると言う悲運に遭ったグラナドスは、妻アンパロと抱き合うようにして波に沒したと言われています。
こうして傑作『ゴイエスカス』は正に命をかけた作品となってしまったわけです。そんな結末を知って改めて聴くと、又違った感じ方ができるのではないでしょうか?
【紹介した曲】
①スペイン舞曲第5番「アンダルーサ」 (民族性が強い)
②組曲「ロマンティックな情景」(ロマンティシズムの強い)
③「嘆き、またはマハと夜うぐいす」(二つが融合した最高傑作)
2017年4月9日(日)