第6回《生誕150周年に寄せて③》 シベリウス:交響詩「タピオラ」 作品112
今日12月8日はシベリウス(1865〜1957)の誕生日だそうです。なので、3回連続で書いてきたシベリウス作品については、とりあえずこれまでにしようと思います。(紹介したい作品は山ほどあるので、そのうち又書きます。)誕生日に紹介したい作品はシベリウス晩年の傑作「タピオラ」作品112です。
この作品は叙事詩「カレワラ」に描かれる森の神タピオと、その国タピオラを題材としたものですが、60歳の時に完成したこの作品、実は彼にとって最後の交響詩に当たります。しかも彼はその後91歳で亡くなるまでほとんどまとまった作品を手がけておらず(今で言う定年退職?)、「タピオラ」はシベリウスの作曲活動における集大成とも言える名曲なのです。
前々回、交響曲第1番を紹介した際に「しつこい位感情を出してくる」と書きましたが、この作品では全く逆のイメージを持ちました。つまり、描写的な要素を一切含まず、模糊とした雰囲気の中淡々と進んで行く感じ・・・。ですが何回か聴いていると、いつの間にか曲の持つ渦のようなものに飲み込まれていました。(曲との出会いも、交響曲第7番のCDでのカップリングで、特に意識もせず聴いていて…でした。)
曲は、少ない主題(メロディー)を派生させながら何度も繰り返していく手法で書かれています。序盤からいかにもシベリウスといった冷やりといたした空気が漂ってきますが、素朴なメロディーを様々な楽器で演奏し繋いでいき、一歩一歩ゆっくりと金管楽器と打楽器による頂点に向かって進んでいきます。しかし強奏の波は次第に引いてゆき、最後は、弦楽器の荘厳な和音により静かに曲を終えます。
この曲を聴いていると、カレワラの物語を音楽で書いていくというよりも、寧ろその森に漂う空気感をオーケストラに凝縮した様な、そんな曲に思います。皆さんも是非、シベリウス作曲活動の最後を飾るに相応しい傑作を(最初は何気無く、気付いたら森の奥へ?)聴いてみてください。
以下はスコアの冒頭に描かれている言葉
往昔の神秘なる未開の夢想いだきつつ
北方の薄暗き森はみなひろがり立てり
森の大神や木の精共はその中に住まいて
薄暗やみに不思議なる秘密を織りなす。
2015年12月8日(火)