第7回《声の重なりが生む響き》トーマス.タリス:40声によるモテット《Spem in alium(御身よりほかにわれは)》
前職場で知り合い、公私共に大変お世話に成っている友人達と、一年の疲れを吹き飛ばすべく、箱根日帰り温泉&グルメ旅へと行ってきました。美味しい料理に温泉(皆さん大変なグルメ)、こんなに近くにある魅力的なスポットなのに、偶にしか行かないのは勿体無いと感じた充実の1日でした。そんな帰り道・・・・リーダーの発案で立ち寄った湘南平からの絶景を見ていて、急に思い出したある音楽。景色とのミスマッチに「何故今この曲?」と突っ込みつつ、頭の中で鳴っている荘厳な響きが一年の色々をリセットしてくれる感覚がありました。曲は、16世紀イングランドの作曲家トーマスタリスの40声によるモテット《Spem in alium(御身よりほかにわれは)》です。
よく小・中学校学校の頃合唱曲を歌う時、「この曲は3部合唱です」とか「部分4部合唱です」と言われた時には其れだけで「難しい曲だな〜」と先入観を持っていました。この曲は其れどころでは無いですね。40声です。正確に言うと5声で1まとまりの合唱が8グループあり、5×8で40声部という構成になっています。いったいどの様なサウンドになるのか・・・
先ずは1群ずつがポリフォニー(追いかけっこをする様に)で順々に登場します。これが複雑に絡み合う内に今度は全てのグループが同時に音楽を奏でます。この、少しずつ美しい響きに引き込まれる内に(1つのグループ5声だけでも十分美しい)気付くと巨大な声の渦に飲み込まれている感覚は正に荘厳。鳥肌が立ちます。 これをもう一度繰り返した後、セクション毎に呼び掛け合うようなパッセージが出現しますが、これも又心地良い響きがします。 突然音楽が途切れたと思った次の瞬間、全員で「respice(思いやってください)」と歌う箇所は一番の聴きどころです。
この様な宗教的な作品に次の様な表現はそれこそミスマッチと思いますが、この曲を聴くととても壮大な星空、宇宙を想起してしまいます。冬の空気の澄んだ夜空とタリス。意外ですが、中々良い組み合わせだと思います。騙されたと思って、一度試して(聴いて)みてください(笑)
2015年12月19日(土)