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第20回《自然の表裏》E.ショーソン「愛と海の詩」

 鳥取中部で大きな地震がありました。マグニチュード6.6(震度は6弱)。死者は出なかったものの、建物は半壊や1部損壊が多く大きな被害が出ています。3月には熊本、そして鳥取。天災には太刀打ち出来ませんが、しっかりと備えておく事を改めて意識しようと思います。
 という事で急遽、身内の居る北栄町に夜行バスで向かいました。出雲行きに乗り朝米子に下車。そこから山陰本線で現地へ。役に立つかは分かりませんが、何か出来ればと思い。発生して二日後に着いたので現地に着くと既に、多くの家の屋根にはブルーシートがかかり落ちた瓦も撤去され一先ず落ち着いていましたが、道路橋は橋桁からずれ潰れ傾いた家も多々見受けられました。本当に誰も亡くならなくて良かったです。
 仕事の関係で翌月曜昼の汽車で帰る事になりましたが、その日の早朝近くの海を散歩しに行きました。高い空と美しい海の青。こんな災害を起こしてもやはり、自然の美しさは揺るぎない。そんな普段は感じない安堵感を覚えながら。
 
 前置きが長くなってしまいましたが、そんな美しい海の印象を思いながらこの曲を聴いています。エルンスト・ショーソンの『愛と海の詩』です。オーケストラと歌によるこの作品は言わば歌付きの交響詩。

 1880年代フランスでは詩人も音楽家も皆ワーグナーに夢中になっており、その影響力に圧倒されていました。そんな中、ワーグナーの響きを積極的に吸収し自分独自の技法へと昇華できたのがショーソンでした。繊細で感傷的な響きとオーケストレーションによる色彩感でフランスに新しい潮流を生み出し、後のドビュッシーやラヴェルへと受け継がれる事になるわけです。

 曲は1882年から1890年の約8年を費やして描かれました。友人のモーリス・ブショールの同名の詩集をテキストにして、第1部『水の花』第2部『愛の死』そして、二つの間に「ゆっくりと、悲しげに」と題された短い間奏曲の3つの部分で構成されています。
 第1部『水の花』では青年の抑えきれない恋心が切々と歌われ、それに寄り添う様な幻想的で繊細なオーケストレーションがたまらなく美しいです。
 第2部『愛の死』では過ぎ去った愛の悲しみのモノローグとも言える内容で、下降旋律により沈んでいく音楽が、やり場の無い悲愴感をより一層際立たせている。尚、第2部の最後に置かれた『リラの花咲く季節』は特に有名で、単独で取り上げられる事も多い曲です。

 切なく押し寄せる迷いや戸惑い、苦悩すら感じる詩とその言葉たちに寄り添いながらも、どこか暖かく透き通った美しい音楽。その「表裏」とも言える異なる性格が合わさって初めて生まれる美しさは、或いは究極とも言えるのかもしれません。当に『自然』のそれを表現しているのかの様です。

2016年10月24日(月)

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