体験レッスンのお問い合わせはこちら
体験レッスンのお問い合わせはこちら

第14回《過去への思い》V.ウイリアムス:トーマスタリスの主題による幻想曲

 昔読んだ本に、未だ印象に残っている文があります。「人は何故、過去にロマンを感じるのか?」というもの。肝心な内容を忘れてしまいましたが(汗)。

 さて、GWはここ最近京都や滋賀で過ごすというのが恒例になっています。何故かというと、宿があるからなのですが・・・(従兄弟が住んでいる笑)。今年は二日間の滞在で、滋賀の石山寺と白髭神社、京都の法界寺に行ってきました。石山寺では33年に一度のご開帳を見に行き、如意輪観世音菩薩や胎内佛像4躰(最古のものだと飛鳥時代)を拝観。法界寺では薬師堂内陣の厨子に安置された乳薬師(鎌倉時代後期)を見に行ってきました。こちらは4月29日から5月8日までの公開で前回公開されたのは1965年だそうで、実に半世紀ぶりの公開でした。そんな重文のオーラに圧倒されながら、過去の時代を想像し(妄想)しつつ満喫してきました。
 「過去に想いを馳せる」という面でおいては、クラシック音楽を演奏するプレイヤー自身、楽譜を通して常に過去と向き合っている事になります。作曲家においても又、過去のスタイルへと回帰しようと言うイズムがあります。今回紹介する作品は、そんな過去の音楽を元に新しい音楽に生まれ変わった一曲をご紹介します。

 トーマスタリスの主題による幻想曲。この作品は20世紀に活躍したイギリスの作曲家レイフ.ヴォーン.ウイリアムズが、16世紀英国における「教会音楽の父」と称えられる作曲家トーマス.タリスによるアンセムを元に作られた弦楽オーケストラのための曲です。しかしこの曲、ただの弦楽合奏の為の作品という訳ではありません。
 二つの弦楽アンサンブル(一つは一般的な編成、もう一つは1パート2人ずつの小編成)と4人の独奏者(つまり弦楽四重奏)という大・中・小の三つのアンサンブルが共存する事で独特なサウンドを作り出しているのです。しかも二つの弦楽アンサンブルの場所を離すことが求められ、そうした空間配置を採ることで非常に立体感のある響きが生まれています。それはオルガンの響きであり、又、聖歌隊が左右両サイドから掛け合いながら歌い継いでいる様でもあります。この曲を聴けば、誰もが教会内部の音響効果を想像することが出来る、そんな傑作だと僕は思います。

 ウイリアムズは、イギリス中世の音楽に強い影響を受けていると言われています。其れは教会で行われるミサであったり、野で歌われる牧歌であったり様々ですが、彼はそうした過去への憧れを弦楽合奏という形で見事に表現したわけです。是非皆さんもこの作品を聴いて、中世英国における教会の雰囲気を覗いてみて下さい。

 こうした音楽を聴きながら過去の時代に想いを馳せていると、忙しい毎日や嫌な事あれこれを忘れる事ができます。至福のひと時ですね。

ん・・・・という事は、「過去へ想いを馳せる」=「現実逃避」って事?(笑

5月4日(水)

コラム一覧へ >